危険物施設内は、危険物が揮発し、ガスが発生、滞留する可能性の高いエリアになっています。それゆえ、点火源となるものの持ち込み管理を厳しくしておかないと、火災爆発などの災害発生のリスクが高まります。したがって、危険物施設内の電気設備は、防爆仕様にし、点火リスクをコントロールしています。
にもかかわらず、持ち運びのできる非防爆仕様の電気機器、例えば電卓などを危険物施設内に持ち込んで使用していることを見かけたりしますが、これは大丈夫なのでしょうか?
今回は、防爆エリアへの電卓の持ち込みについて、法規制の観点から考えてみたいと思います。
労働安全衛生法の観点から
まずは、労働安全衛生法にこの問いに関連する項目がないか調べてみました。
危険物と点火源に関する記述は、労働安全衛生規則第二百五十六条の一項と四項に確認できました。「爆発性の物、引火性の物に火気その他点火源となるおそれのある物に接近させないこと」とあります。以下の通りです。
事業者は、危険物を製造し、又は取り扱うときは、爆発又は火災を防止するため、次に定めるところによらなければならない。
一 爆発性の物(令別表第一第一号に掲げる爆発性の物をいう。)については、みだりに、火気その他点火源となるおそれのあるものに接近させ、加熱し、摩擦し、又は衝撃を与えないこと。
二 発火性の物(令別表第一第二号に掲げる発火性の物をいう。)については、それぞれの種類に応じ、みだりに、火気その他点火源となるおそれのあるものに接近させ、酸化をうながす物若しくは水に接触させ、加熱し、又は衝撃を与えないこと。
三 酸化性の物(令別表第一第三号に掲げる酸化性の物をいう。以下同じ。)については、みだりに、その分解がうながされるおそれのある物に接触させ、加熱し、摩擦し、又は衝撃を与えないこと。
四 引火性の物(令別表第一第四号に掲げる引火性の物をいう。以下同じ。)については、みだりに、火気その他点火源となるおそれのあるものに接近させ、若しくは注ぎ、蒸発させ、又は加熱しないこと。
五 危険物を製造し、又は取り扱う設備のある場所を常に整理整とんし、及びその場所に、みだりに、可燃性の物又は酸化性の物を置かないこと。
2 労働者は、前項の場合には、同項各号に定めるところによらなければならない。
労働安全衛生規則第二百五十六条
では引き続き、危険物貯蔵所内での非防爆仕様の電卓が、点火源に該当するかどうかを考えてみましょう。
2つの疑問
危険物貯蔵所内には何らかの可燃性雰囲気が発生しているという想定で、以下の2つの疑問について考えてみましょう。
「爆発性の物、引火性の物に火気その他点火源となるおそれのある物に接近させないこと」をもう少し詳しく考えてみましょう。
- 電卓は点火源になり得るか?
- 点火源をどこまで接近させたら危険なのか?
電卓は点火源になり得るか?
電気製品はIEC規格という、国際的な規格があります。
IEC規格には、電気製品の安全性を担保するための規格も定められています。また、IEC規格は、危険箇所で使用しても点火源・着火源となる恐れがない機器というものを以下のように定義しています。
以下をすべて満たす場合は、着火源とならないと判断してよいでしょう。
- 定格電流 0.1A以下
- 定格電圧 1.5V以下
- 定格電力 25mW以下
一般的に電卓には、電池が使用されており、小さな豆電池でも、1.5Vくらいはあるので、条件全てを満たせないわけです。
1つ目の疑問、電卓が着火源になり得るということは理解できました。
点火源をどこまで接近させたら危険なのか?
では、点火源をどこまで接近させたら危険なのかも考えてみたいと思います。
これには、「危険場所」という考え方の理解が必要となります。危険場所は、先ほど紹介したIEC規格でも定められており、爆発性雰囲気の発生頻度などを考慮して危険度をレベル分けしたエリアのことを言い、3段階に分かれています。
以下の表のとおりになっています。
特別危険箇所(0種場所、Zone0) | 爆発性雰囲気が通常の状態において、連続してまたは長時間にわたって、もしくは頻繁に存在する場所 |
第一類危険箇所(1種場所、Zone1) | 通常の状態において、爆発性雰囲気をしばしば生成する恐れがある場所 |
第二種危険箇所(2種場所、Zone2) | 通常の状態において、爆発性雰囲気を生成するおそれが少ない、または生成した場合でも短時間しか持続しない場所 |
そして、それぞれの危険場所には、対応した規格の電気設備を設置しなければなりません。危険場所は、Zone0>Zone1>Zone2の順で危険度のレベルは低くなっていきます。また、Zone2から対応した規格の電気設備を設置しなければならないということなので、着火源となりうる非防爆の電卓は持ち込めないと考えるべきでしょう。
では、危険物貯蔵所内では、Zone2に該当するエリアはどこでしょうか?
屋内貯蔵所のZoneは何?
危険物の規制に関する留意事項に、以下の説明文を見つけました。
これは、屋内貯蔵所におけるZone2の範囲を具体的に示したものになります。
貯蔵タンク、取扱いタンク、容器、継手(溶接継手を除く。)を有する配管等その他密閉された設備を用いて引火性危険物を貯蔵し、又は取り扱う建築物内の部分は、第2類危険箇所とし、設置する電気機器は危険箇所の種別に適合する防爆構造のものとする。
危険物の規制に関する留意事項
つまり、「危険物の規制に関する規則」においては、貯蔵タンクなどを用いて引火性危険物を貯蔵し、又は取り扱う建築物内の部分はZone2として扱うということになります。
補足事項ですが、電卓は上記「危険物の規制に関する留意事項」での、「電気機器」に該当しないと思われますが、着火源になり得るため、この規定を参考に対応を検討しておいた方がよいと思います。
まとめ
回りくどい説明になってしまったので、最後に簡潔に結論をまとめたいと思います。
危険物施設(屋内貯蔵所)内で電卓(非防爆)を使用しても良いか?→NO!
理由は、
- 非防爆の電卓は着火源になり得るため
- 危険物を貯蔵、取り扱う建築物内はZone2として扱うため
どうしても電卓を使用する必要がある場合は、防爆仕様の電卓を使う、施設の外で使用するなどの対応が必要でしょう。
今回は、以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。